今日という日にゲンに声をかけたのは、もちろんウソをつくためだ。
「ゲン!あのね……」
第一声は元気よく。しかし、その後が続かない私をゲンは全部分かってるよという顔で見つめてくる。
「あの、私……私、実はこの星の人間じゃないの!」
「えーッ!ジーマーで!?……ってそれはさすがにないでしょ〜」
「うう」
ゲラゲラとお腹を抱えて笑うゲンに文句のひとつでも言いたいところだけど、ウソをつくにしてもレベルが低すぎることなんか私にだって分かってる。
私はウソをつくのが苦手だ。ゲンとは正反対。良い意味でも悪い意味でも正直らしく「顔に出てるよ」と言われたことは数知れず……そんな私の精一杯のウソも、ゲンに秒で笑い飛ばされてしまった。
「無理しなくたって良いんじゃない?つかないに越したことはないよ、ウソなんて」
「でも」
「俺は好きなんだけどな〜名前ちゃんのウソつけないとこ」
だからそのままでいてよ、だなんて甘やかすような言葉と優しい笑みのダブルパンチで私は完全に動きを封じられた。
「ね、また顔に出てるよ」
こんなの、ゲンがよくやる茶番劇みたいなものじゃないか。彼の言葉をそのままの意味で受け入れてしまいたい私は、どこまでいっても正直者みたいだ。
「す、すきって、私がホントに宇宙人でも……?」
「それ引っ張っちゃう!?」
再び爆笑しだしたゲンを見ていたら悔しいようなもどかしいような変な気持ちがモヤモヤと湧いてきた。
「もうゲンなんて知らない!」
「ひ〜、く、苦し……ごめん。だって……名前ちゃんジーマーで怒った?」
「知らないったら知らないっ」
今日はもう知らないけど……明日になって、もしゲンがまた私に好きって言ってくれたら、その時は特別に許してあげようかな。
2021.4.1
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